憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
目的の為にあたしを利用しようとしたくせに、結局尚は自ら手離した。他人との間に境界線を引き、自分の感情も他人の感情も犠牲にして復讐を遂げる。
それをするには、彼は随分優しすぎたのだ。
無関心な振りをしながらも、結局見捨てることも出来ずに手を差し伸べてしまう。
「傍にいたいと思ったの。でも、それだけじゃ嫌だ」
微笑んで見せた。
あたしに触れていた尚の掌をぎゅっと握る。
そんな薄暗い場所で、蹲ったまんまでいるつもりなの。父親の足を掴んで、同じ暗闇に引きずり落として、一緒に消えてなくなるつもり?
「あたしは、尚と一緒に明るい場所で幸せになる。今すぐには無理だって、絶対にこの手で掴んで引き上げてみせる。だから――、」
緩やかに込み上げる感情に、鼻の奥がツンと痛くなる。
心が揺れて、うまく言葉にならない。思わず咽喉を押さえたあたしの背を、尚が、いたわるようにゆっくりと撫でた。
「諦めないでよ」
無理矢理に絞り出した言葉に、尚が小さく息を呑んだ。