憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
淡い橙色のルームライトの中で、その繊細な美しさがくっきりと浮かぶ。
繋いだ手から伝わる尚の温度。
低い体温。
あたしの手は、夏でも冬でも熱を閉じ込めたようにあついから、このまま握っていれば彼を溶かしてしまいそうだ。
「……参ったな」
「え?」
尚が、独り言のように呟いた。
くるりと視界が反転する。見上げれば、そこには艶やかに口角を上げる眉目秀麗な王子。
「え、ちょ、ちょっと待って……!」
「なに?」
「何じゃない!この体勢おかしいでしょう!」
必死に訴えるも、尚は首を少し傾げただけで一向に身体をどかそうとはしない。さらりと零れる漆黒の髪を耳に掛けながら微笑んだ。
「どこが?何もおかしくないけど」
「おかしい!おかしいよ!!あんたは知らないかもしれないけど、物事にはそれなりに順序っていうものがあって……」
「手も繋いだし、キスもした」
「そ、そういう問題じゃ……」
尚はくつりと笑い、「黙って」と言わんばかりにあたしの口をキスで塞ぐ。反射的にきつく閉じた瞼を、唇が離れるの待ってそろりと開いた。白磁の肌に尚の長い睫毛が影を落とす。
綺麗な顔に、少し掠れた尚の声が耳をくすぐる。ドキドキと心臓がもの凄い速さで脈を打っている。
じわり、じわりと、“好き”という感情があたしの胸を侵食する。何度も、何度も、あたしは尚が好きなんだと自覚させられてしまう。