憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
ぎしりとソファが軋んだ。
その音が妙にリアルで、心の芯がざわりと震える。
「今日、泊まってく?」
尚が小さく笑いながら聞いた。
相変わらず、意地悪だ。答えなんて、とっくに分かっているくせしてそんなことを言うのだから。
「うん。一緒にいたい」
自分でも吃驚するくらいするりと出た言葉は、素直な自分の気持ちだった。
その時だ。
―ピピ、ピピ、と何の着信音も設定されていない尚の携帯電話が鳴る。手に取った尚は、着信表示を見た瞬間あからさまに眉を寄せた。
「出て、尚」
そのままだったら、絶対にするりと無視しそうだったので、そう促した。
尚は、渋々といった様子であたしから離れ、携帯に出た。
次の瞬間、キンと耳を劈くようなヒステリックな声が携帯から漏れた。
『いい加減に、してちょうだい!』
「……美香子さん。いきなり、どうされたんです」