憂鬱なる王子に愛を捧ぐ

「大丈夫だよ、尚」

「何が……」

尚の手を取った。
黒曜石のような漆黒の瞳が、あたしをじっと見つめる。

その瞳のなかに映る自分は、どこか泣き笑いのような表情をしていた。
ずっと、尚が頑なに縋ってきた唯一の支え。あたしが今、彼の背を押すことは、今まで多くを犠牲にして築き上げたものを壊すことだ。

「もう、何も。欺く必要なんて、ないよ」

今度はあたしが、千秋だって、尚の支えになりたい。あなたがいつも、そうしてくれていたように。

「だから、行こう」

そっと手を引いた。
尚は、それを拒まなかった。

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