憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
「見てたもの」
震える声で結衣ちゃんが言う。
「言っておくけど、私はね、真知なんかよりもずっとずっと、尚のこと近くで見てきたんだから」
「ごめんね、あたしは……」
「ごめんって言うな!何も聞きたくないんだよ!真知の裏切り者!!尚も、絶対に許さない。ずっと嘘吐いてたくせに今更私にどうしろっていうの!?」
頭に手をやって、枕を掴む。
「本当の尚なんて、知らない!」
怒鳴って投げつけられた枕を、あろうことか尚が持ち前の反射神経でひょいとよけたおかげであたしの顔面にぶち当たる。……痛い。尚は、無表情のまま結衣ちゃんに向き合う。
「結衣、俺は」
「違う。いつもの尚はそんな風に冷静じゃない。私が癇癪を起こしたら、もっと困った顔をして、機嫌直してって優しく頭を撫でてくれるの!」
見たくないと大袈裟に頭を振る。
「違う、全然違う!!」
駄々をこね、終いには大粒の涙をこぼしながら尚に食い下がる。その手を尚は降り解かない。ただ、すべてを受け入れている。
「…私が好きになった尚は、あんたじゃない」
「知ってるよ」
尚が言う。
その声に、尚の腕を強く強く握りしめていた結衣ちゃんの力がふと緩む。