憂鬱なる王子に愛を捧ぐ

「つぐなって」

小さく目を細める尚の手に、結衣ちゃんが静かに左手を重ねた。

「指輪が欲しい」

「指輪」

「いまね、女の子が皆欲しがってるレヴェンのピンキーリング。ピンクゴールドでね、大きなダイヤがハート型になって填められててすっごく可愛いんだ。でも高いからとても私のお小遣いじゃ買えなくて」

「……そんなもので、結衣はいいの?」

沈黙は、あまりにも重たかった。結衣ちゃんは、尚のその問いに頭を下げたまま小さく舌打ちをした。

「いいわけないじゃん」

声が震える。
頬には、もう幾筋も涙の後が残っている。

「尚の代わりが、そんなガラクタでいいわけないじゃん!そんな当たり前のこと聞くな!馬鹿!!でも、何かなきゃ。支えがなきゃ、生きていけない」

尚の手が結衣ちゃんに向けて伸びて、そのまましっかりと自分の胸に抱き寄せた。

「私が大好きなのは、尚だけだもん。こんなことも分からないニブチンでも、……やっぱり私は、尚がいい」

「俺は結衣のこと、唯一の家族だと、思ってる」

「……うん、知ってる」

「だから、ごめん」

「何年も待たせて、……ごめんなんて酷いよ」

結衣ちゃんは、ぎゅうと尚の背中を抱きしめて、そのまま声を押し殺すようにして泣いた。プライドの高いその姿は、やっぱり尚によく似てる。そのまま気の済むまで泣き続けて眠ってしまった結衣ちゃんを、尚がそっとベッドに寝かした。
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