憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
「お客様っ!すぐにタクシーをお呼びしますので…」
「結構です」
「……ですが……」
あたふたと戸惑い慌てる店員を一蹴する。
ああ、もう。
うまい、安い、家から近いという三拍子揃ったお気に入りの居酒屋でこんな目立って。しばらくはこの店には恥ずかしくてとても行けやしない。
この大馬鹿野郎のせいで。
180センチある男を背中に担ぐあたしを店員達がもの凄い目で見てくるのを全力で気づかないふりをして、よろめきながら星の瞬く夜の道を歩く。
「なーにやってんのかなぁ、もう……」
思わず溜息。
近くにある公園のベンチに、千秋を寝かせた。
サラリと零れ落ちる茶髪。今は閉じられている薄い瞼。男の癖に、なんだこの色気は。
悔しくなって思わずデコピンをしてやった。