憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
「尚、違うでしょ」
「何も違わない、真実だ」
「だって尚はこれから、結衣ちゃんと向き合うんでしょう」
許しを請う代わりに、尚はきっと自分を責める。彼の生来の優しさは、いつだって過去の自分を否定して傷つけるのだ。けれど、そんなことを結衣ちゃんが望むはずない。尚が演技をしていたことに気づいていた結衣ちゃん。問い詰めることもせず、ただ騙された降りをしていたのは色んな理由があったにせよ、やっぱり尚が好きだったからだ。
ふたりは、ようやく向き合った。
『時間なら、これから沢山あるから』
そう言って、今度こそ自分の為に生きていこうとする尚の隣に、あたしはいたいと心から思う。
「……と」
「へ?なに、聞こえない」
あたしが聞き返せば、尚は嫌そうに顔をしかめた後に小さく俯いた。
だから、と言いながら尚はゆっくりとあたしの肩を押す。
「ありがと」
「……え」
思わぬ言葉に驚きの声を上げそうになる。
けれど、それも叶わなかった。
「……っふ」
言葉を閉じこめるように、尚はあたしにキスを落とした。
唇を離して、いつの間にかあたしを見下ろす尚。こぼれるような、艶のある黒髪に手を伸ばしてといた。誰よりも、尚に近い。黒曜石のように真っ黒な尚の瞳にうつる自分は、緊張した面持ちだ。