憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
―……やばい、これは……。
今になって、心臓がばくばくとスゴい音をたてる。
「ひ、ひひ、尚!!」
うわづった声に、尚はどうしたのと首を緩やかに傾げる。あの、とか、ええっと、とか、どもりまくってまともな言葉が口に出来ない。
雰囲気を壊してしまうに決まっている。けれど、正直に言えば、もの凄く怖いのだ。びくびくしながらごくりと息を飲めば、尚がふっと口元に笑みを浮かべた。
「また、今度にしませんか……」
「駄目」
「っえ、ひゃわっ!」
尚のひやりとした手が、服の中にするりと滑り込んだ。
「もしかして、緊張してる?」
「ったりまえでしょうが!!」
あまりに不思議そうに言う尚に、あたしは思わず声を上げる。
「真知、知ってた?ひとつの説でさ、生き物の一生で打つ心臓の鼓動数って概ね決まっているらしいよ」
「へえ!?」
いきなり、この状況でいったい何を。あたしの口から、思わず間抜けな声が漏れた。
「真知の鼓動、すごくはやい」
尚の、長い指があたしの心臓を掠める。くっと、無意識に息を詰めた。
「も、もしかして……、あたしが早死にするとでも言いたいわけ?」
「そうかも」
「縁起でもない!!」
直に尚の掌に鼓動を伝えてしまっている。それを考えるだけで、よけいに鼓動が速まってしまうのだ。