憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
ああ、このままじゃ本当に、尚に殺される。

「……でも」

そっとあたしの手を、尚の片一方の手がとり彼へと招かれる。

「ちょ、ひ……、尚っ!」

完全にあたしはパニックに陥った。
もう、だって、何から何まで初めてで、身体全部が心臓になっちゃったんじゃないかってくらい、ドキドキバクバクとうるさい。顔だって、絶対に真っ赤だ。

だって触れてる。
あたしの指先が、尚の心臓に。その指先に感じるのは。

はっとして、あたしは尚の顔を見た。少し速い、彼の鼓動。

「……ポーカーフェイスすぎるよ……」

悔しくなって、あたしは思わずそんなことをつぶやいた。
尚はくっと、喉の奥で笑う。

―なんだ、そっか。

あたしは、少しだけホッとしていた。

「同じだよ」

息を吐いたあたしに、尚が優しく言った。

「うん、同じだね」

「俺が早死にしたら、真知のせいだから」

安心したら、自然と涙が滲んだ。それを確かめるように、尚があたしの目尻に口づける。
ぷつん、服のボタンがはずされる、小さな音が耳を掠めた。

「……尚」

頭の芯が、じりじりと痺れる。
不思議だ。尚の指は冷たいのに、触れた場所はまるで熱を持ったかのようにあつく感じる。譫言のように尚の名前を呼んだ。
< 503 / 533 >

この作品をシェア

pagetop