憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
「……んう」
ごしごしと目を擦りながら、ゆっくりと軋む身体を起こす。すでに高くあがりきった太陽の光に目の奥が鈍く痛む。
ふわりとトーストの香ばしいにおいが、あたしのお腹を刺激する。そういえば、昨夜はあんまりゆっくりご飯食べれなかったっけ。
「って、……うわ!」
いきなり現れた尚に、あたしは思わずタオルケットをかぶって反射的に隠れてしまった。なんていうか、これは……、本気で恥ずかしい!
「何時だと思ってんの」
尚に、やっぱり容赦なくタオルケットをはぎ取られ、それでも逃げるようにアルマジロよろしく丸くなった。
「……」
しばらくそうしていたものの、一向に尚があたしに声を掛けることはない。おそるおそる顔を上げる。そうして、あたしは一瞬にしてフリーズする。
「おはよ、真知」
そう、いつもと変わらない挨拶。ゆるやかに笑む尚。なんていうか、きらきらと光って見える。反則だろうってくらいに、かっこよく見えた。たった一夜にして、どうしてこんな。
借り物の尚のTシャツも、ほのかに香る彼のフレグランスも、全部全部、まるで夢のように実感がない。ていうか、夢じゃないよね?本当に、あたし。おずおずと見上げれば、尚はぱちぱちと瞬きをする。
「身体、だいじょうぶ?」
「……ぎゃー!」
思わず叫んだあたしを、尚は珍獣でも見るような顔で見た。
「真知、うるさい」
「尚、シャワー!シャワー貸して!!」
呆れたように頷いた尚。駄目だ、頭を冷やさなくては。とてもじゃないけれど、今の状況では冷静に尚と向き合えない。駆け込んだシャワールームで、温めのお湯を浴びながら、目の前の鏡に手をついて深い深い溜息をついた。