憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
「……あ」
その時、気づいてしまった。
あたしは、そっと指先を自身の鎖骨へと這わせる。残っていたのは、尚がつけた赤い印。こみ上げる感情にぎゅうと胸がしめつけられる。恥ずかしがって、こんなところで苦悶してる場合じゃない。シャワーを止め、慌てて服を身につけてシャワールームを出れば、尚が待ちかねた様子であたしを見た。
「大丈夫?」
心のことも、体のことも、ひっくるめてあたしのことを心配してくれる尚に、嬉しくてどうしようもなく愛しくて、思わず泣きそうになってしまうのを必死に耐えた。
「……うん、ありがと」
席について、ちらと尚の顔を見る。ぱちりと目が合えば、やっぱり妙に照れくさい。そんなあたしにつられるように、尚もどこか困った顔をして、誤魔化すようにコーヒーに口をつけた。
ああ、夢じゃないんだな。
服の上からそっと、跡を撫でる。夢も現も、あたしはどんな状況だって尚が好きだ。ようやく、隣に立てたんだ。
尚のマンションを出た頃には、午後の三時を過ぎていた。
夏らしい突き抜けるような青い空に、刺すような太陽の光が目に痛い。
「千秋に連絡したの。どうせ、真知のこと心配してるだろ」
「うん、さっきメールしておいたよ。そしたら、こんな返事が来た」
尚に携帯の画面を見せる。