憂鬱なる王子に愛を捧ぐ




「お客さま、本日はどのようなものをお探しですか?」

綺麗な店員さんが、にっこりと笑顔を浮かべながら尚に問う。尚は、興味なさそうにガラスケースの中を見つめていた視線を上げた。

あたしと尚は、レヴェンという今若者を中心に人気を集めているジュエリーショップにいる。イタリア発祥のブランドで、ゴールドを主とした華奢で繊細なデザインが上品でいて可愛らしい。

「新作のピンキーリングが欲しいんですけど、ありますか」
「はい。新作ですと、こちらのショーケースに並んでいるこちらになりますね。今大変人気のシリーズになっておりまして、再入荷したばかりなんです」

丁寧に説明をする店員さんが、いくつかのサイズで用意されたリングのケースを広げる。

「お客さま、お試しされますか」

「……え、ええっと、あの……。あたしじゃなくて……」

「1号」

「お試しされなくてもよろしいんですか?」

「大丈夫です。プレゼント用に包んでください」

にっこりと笑みを浮かべながらも有無を言わさない雰囲気の尚に、店員さんは慌ててラッピングを始める。その様子をあたしは何も言えずにただ見ているだけだ。華奢なピンクゴールドにはめ込まれた、きらきらと輝くダイヤモンド。

黙りこくったままのあたしを、尚がとなりからのぞき込む。
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