憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
「何、もしかして妬いてるの?」
驚いて尚の顔を見上げれば、これまたどうして、随分楽しそうに口角をあげている。なんなんだ、その顔は!
「な、そ……、そんなわけないじゃん!」
慌てて顔を逸らせば、「なんだ、残念」そんなことを言ってとなりでくつくつと笑うのだ。まったく、何の前触れもなくそういう発言するのはいい加減にやめて欲しい……。思わず、両手で顔を覆った。絶対にトマトより赤い自信がある。
「お客さま?」
ラッピングを終えた店員さんが、不思議そうな声音であたしに声を掛けた。
「気にしないでください」
久しぶりに見る、人当たりの良い笑顔を浮かべた尚が、店員さんの手から指輪の入った袋を受け取った。
そうして店を出たあたし達は、結衣ちゃんの待つ病院へと向かう。約束は午後の三時だ。日曜日の午後ということもあって、誠東病院へと続く参道は家族連れや恋人達でにぎわっている。
「尚、大丈夫?」
「何が」
「……何か考え事してるみたいだから」
人が行き交うのをぼんやりと見つめていた尚に、あたしは思わず声を掛けていた。もしかして、不安なのだろうか。そっと下からのぞきこめば、尚は逃げるようにフイと視線を逸らした。
「支えになるよ」
ぎゅうと手を握る。
視線は合わせてくれないから、あたしもただ同じように前だけを見て言った。尚の代わりになんてなれはしないだろうけど、大好きなお兄さんがくれたものなら。結衣ちゃんの、前に進もうとする背中をそっと押してくれるような力に、きっとなる。