憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
白を基調とした病院は、大きな敷地に緑が沢山植えられている。秋のにおいにが混じった風がさわりと吹き抜ければ、さわさわと色づいた葉が乾いた音を立てる。
「結衣ちゃん、起きてるかなあ」
ノックを2回すれば、「はあい」と明るい声が中から響く。
尚がそっと扉を開けて中へ入る。
「尚!……真知も」
あからさますぎる結衣ちゃんの反応は、いっそ清々しくさえあるな。
あの日の出来事なんて、まるで何もなかったかのように振る舞う結衣ちゃんは、妹として尚に甘える。それでもどこかやっぱりぎこちないのには、尚だって気づいているはずだ。
「……結衣、これを」
尚がラッピングされた小さな箱を結衣ちゃんの手のひらにのせる。結衣ちゃんは、瞳をきらきらと輝かせてそれを受け取った。女子高生らしく、サイドテーブルに置かれていた携帯で一枚写真に撮ってからリボンを解いた。中に入っていたきらきらのリングをつまんで嬉しそうに微笑む。
「ね、尚。つけてつけて!」
結衣ちゃんは、左手と指輪を尚に差し出しておねだりする。
尚が、そっと彼女の手をとった瞬間、ハッとしたようすで結衣ちゃんの顔を見上げた。