憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
「結衣、おまえ……」
「いいから、はやく」
そのまま、尚は結衣ちゃんの左小指にリングを通した。
きらりと光って、そして。
まるでスローモーションのように床に落ちたリングは、かつんと乾いた音を響かせた。目の縁に大粒の涙を浮かべる結衣ちゃんがあまりにも痛々しくて見ていられなかった。
頼まれたサイズは、既製品で一番小さなものだ。彼女は、こんなにも細かっただろうか。あたしの足下に転がった指輪を拾い上げる。
尚は、悔しそうに唇を引き結んでそれ以上口を開かない。ただ尚の拳がぎりぎりと堅く握られているのが見えた。
「尚!」
結衣ちゃんの呼びかけにも応じず、尚は一言「ごめん」と呟き病室から出ていった。ぽろぽろと涙を落とす結衣ちゃん。彼女は知っていたんだ、頼んだリングが痩せてしまった自分の指にあわないこと。彼女なりの、精一杯の意地悪を責めることなんて出来ない。