憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
「結衣ちゃん」
結衣ちゃんの手に、リングを握らせた。
結衣ちゃんは小さく首を横に振る。
「いらない」
「駄目。そんな嘘ついちゃ、駄目だよ」
泣きじゃくりながら、指輪を握りしめた拳を自分の額に押しつけた。後悔と何かを愛おしむかのように。そっと結衣ちゃんに背を向けて、出て行った尚を追う。
足早に病院を見て回る。広大な敷地を持つ病院だから、みつけるのに時間が掛かると思っていたけれど、意外に速く彼を見つけることが出来た。そこは病院の中庭だった。
尚の背中からは、言い知れぬ感情が溢れている。尚が前にしていたのは、結衣ちゃんの母親である美香子さんだった。
「何か言いたそうね、尚さん」
美香子さんは、大きな石のついた指輪をはめた指でゆっくりと自身の髪をかきあげた。あたしが近づく足音にちらりと視線だけを向けたけど、すぐに美香子さんをじっと見据えた。
「結衣の痩せ方、あまりにも急すぎる」
「あなたのせいでしょう」
あざ笑う美香子さんに、尚の体が動く。美香子さんをはさんで尚が壁に手をついて彼女との距離を詰めた。
「その笑い方、やめてくれる?すごくムカつく」
美香子さんはゆっくりと尚の頬に手を添えて、艶やかに微笑む。
そして……。