憂鬱なる王子に愛を捧ぐ

「尚!!」

真っ赤に彩られた爪が、ぎりぎりと尚の頬に深い傷を引いた。痛くないわけない。なのに、尚は一向に表情を変えない。

「結衣が死んだら、あんたのせいよ」

憎しみのこもった声で、美香子さんが呻いた。

「やめてください!」

考えるよりも先に、感情で動いてしまうのはあたしの悪いところだ。気づけばあたしは、尚を傷つける美香子さんに勢いをつけて飛びついていた。

「っきゃ」

よろける美香子さんと尚の間に割って入る。
関係ないなんて、もう言わせない。あたしにとって、尚も結衣ちゃんも大切な人なのだ。

「あなたが尚を傷つけたなんて知ったら、結衣ちゃんは今よりずっと傷つきます」

美香子さんは、あたしを睨みつけながらもそれ以上手を出そうとはしなかった。本当はそんなこと、あたしに言われなくたってわかっているに違いない。だって、彼女は他でもない結衣ちゃんの母親なのだから。

美香子さんの体が、耐えきれない感情で小刻みに震えているのがわかった。
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