憂鬱なる王子に愛を捧ぐ

俯いて、あたしがよく行く店を頭の中にいくつか浮かべてみた。
けれど、どうもその場所に尚をイメージすると、不自然な合成写真のように思えてしまう。
そんな思考の渦に一人飲まれていると、肩に何かの重みを感じる。

「へ?」

ふと見れば、あたしの体がソファに押しつけられる。
ぎょっとして尚を見上げれば、美しい切れ長の瞳があたしを見下ろしている。
ちょっと待って、この流れは!

「いやだ、ちょっと!約束が違う!」

「どれだけ労力を費やしたと思ってるの?」

はい、それは知ってます。知ってますとも。
焦る気持ちとは裏腹に、あたしの体は恐怖で縛られてぴくりとも動かない。

思考回路は、まさにショート寸前。
震える唇を必死に動かして、言葉を紡ぎだす。

「あ……あた……、あたし……」


綺麗な顔があたしを見下ろす。
間近で見ると、本当に整っているのがわかる。

こんなに綺麗なのだから、さぞかしモテるんでしょ!あんたが声を掛ければどんな美女でも選び放題でしょ!

「や、やだ!あたしヴァージンなの!!」

「……は?」

あんたの気まぐれに付き合って、20年守り通してきた処女を捧げられるほど、安くないのよ!!
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