憂鬱なる王子に愛を捧ぐ

「ふはっ」

あたしの上で笑う尚を、思い切り睨みつける。

「……なによ……。笑うことじゃないでしょ」

「だって。聞いてもないのに、そんなこと言うから」

相変わらず体は動かないけれど、なんとか言葉だけは発する事が出来た。尚は、小馬鹿にするようにあたしに向かって言った。

「何か勘違いしてない?あんたじゃなくても、そういうことなら他でヤれるし」

「うざー」

尚はその細い指であたしの唇をそっとなでる。
その仕草に思わず心臓がドキリと鳴る。まったく正直すぎるハートが苛立たしい。

「演技して」

「演技?あんた、演劇部でもかけもってるの」

「違う。俺と付き合ってるフリして欲しいんだけど」

「はあ?」

その時だ。

「誰かいる?」

扉の外で、男の声がした。
そして、その声は紛れもなく、聞きなれたあたしの好きな幼馴染の声。ちょっと離れてよ、と尚を押しのけてソファから起き上がろうとした。

なのに、ガラリ、戸の開く音と同時にあたしは強くソファに押し付けられて、まるで見せつけるかのように、強引に、唇を奪われた。
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