憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
唇に残る生暖かい感触が酷くリアルで気持ちが悪いと思った。
尚があたしの上からゆっくりとどいて、真正面に立つ千秋と、目が合う。
なんで、よりにもよって。
「……真知、」
なんだそのアホづら。
ぽかんとした表情であたしを見つめる千秋。
「誰、君」
「あ……お……俺?佐伯千秋。真知の幼馴染なんだ」
尚が首を傾げて問うのに、千秋は思いきり戸惑いながら自己紹介した。
駄目だ。泣きそう。
あたしは無理矢理キスをしてきた尚に平手の一発をくらわすでもなく、「今のは違うの、アメリカ流の挨拶!ほら、こいつアメリカ帰りらしいからさ」なんて、千秋に苦しい言い訳をするでもなく、ただ何も出来ずに、何も言えずに固まってしまった。