憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
「違う!違う違う違う!!」
馬鹿の一つ覚えのように違うの三文字を怒鳴り散らした。ファーストキスを、なんだかわからないうちに奪われてしまったんだ、あたしは!
ずっととっておいた大切な。
別にこの歳になって、ファーストキスはレモンの味、なんて夢見がちなことは思っていなかったけれど。
それでも理想のシチュエーションだってあったんだ。それは決して、こんなにも強引であるはずがない。
ファーストキスを捧げたかった相手の目の前で、違う男に奪われてしまう悲劇。
「照れないでよ、真知」
「照れてない!」
困ったように笑う尚。ていうか、あんた誰!千秋の前でもそのキャラでいくつもりですか。あたし以上に演技して得する相手じゃないと思うんだけど!?
我慢していた涙が、溢れそうで。
でもそれをここで流してしまえるほどあたしは素直で人間じゃなくて。こんなときまで、意地をはってしまう可愛くない女なのだ。
「……っ」