憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
「……あ、ありえない……そういう問題じゃ、」
「それよりさっきの話」
「馬鹿言わないで、そんな頼みごとなんてお断り」
「あんたは断らないと思うけど」
「無理!もう知ってると思うから言うけど、あたしには好きな人がいるから」
「別に構わないよ」
平然とそう言う尚に、あたしは思わず目を丸くする。
「構わないって…」
「演技だけでいい。嫌ならキスだってしないし、もちろんあんたは合コンでもなんでも好きに行っていいし」
手は出さないと、尚は言う。
「じゃあ、何の為に、あたしが彼女の振りしなきゃいけないの」
「それはあんたに関係ない」
尚はきっぱりとそう言いきって、あたしの腕を引いて立たせる。
「断れないだろ?」
「……」
「君は単純。約束は破れない」
確かに。
会って間もない人間にここまでずばずば当てられるのもしゃくなのだけれど、まさにその通りだった。
「なんでそんなこと……」
「俺、人を見る目はあるほうなんだよね」
口元に手をやって、ニヤリと笑う。
その姿は、思わず目が離せなくなるほど、妖艶。
「でもまあ、……俺と付き合うって言っても、佐伯千秋はなんとも思わなかったみたいだけど。なんか喜んでたし」
知っているけれど、それを突きつけられるとやはり悲しみが込み上げてしまう。俯いているあたしの頬に、尚がそっと触れた。
その綺麗な顔が目の前で笑みを浮かべる。