憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
その、反則なまでに整った顔に、あたしは何も言えなくなってしまう。
騙されるな、あたし。
いくら格好がよくたってこいつの人間性は最低なんだぞ。見た目が宮崎マンゴーでも、中身がドリアンじゃあしょうがないでしょうが。
なかなか首を縦に振らないあたしに、尚も段々と不機嫌度が増しているのを感じる。
そんなこといったって!!
「わかった」
「へ?」
「もし、万が一にも、佐伯千秋が真知のことを好きになることがあれば、この契約は解消していいから」
「ほんとうに!?」
「いいよ、折れそうにないしね。でも、それまではきちんとそれらしく振舞ってよ。いい?誰にもこの事は言っては駄目だ」
「うう……、努力します……」
万が一、ってのも酷い話だけれど。
あたしはレポートについた土埃をぱたぱたと払う。
「それじゃ、よろしくね。真知」
そう一言いって、尚はホームへと戻って行った。
なんだかうまい事言いくるめられてしまったように感じられてならない。
あたしはと言えば、それこそ会議になんて出る気は全く起きなかったからそのまま帰宅することに決めた。
紗雪先輩にまたなじられるのかと思うと、口からは大きな溜息が漏れた。