憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
恋をしていた。
それだけで、日常はキラキラと輝いていたし、世界は色鉛筆で塗りたくったかのように色鮮やかだった。あの陽気な性格が幸いしたのか、やたらとモテる千秋に相応しくなれるように毎日が自分磨きの日々。友達が次々と彼氏をゲットしていくのも気にせず、毎年、着実に彼氏いない暦を更新しつつ、今日までやってきた訳だ。
「なんてことだ……!」
呑気にこの酔っ払い男を背負って足腰を痛めている場合じゃない。あたしは、慌てて通りに出てタクシーを呼びとめる。店員の言うとおり、初めからこうすればよかったと少し後悔した。
「彼氏?大変だねぇ」
「違いますから」
運転手の、空気読めない発言にイラつきながら自宅まで乗せてもらう。きちんと、領収書を受け取って(もちろん、コイツに後で払ってもらう為)
ピンポンとインターフォンを押す。
深夜だし、おばさん達は既に寝てしまっているだろう。もう一度、鳴らそうと指を置いたときだった。