憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
何が彼女のフリをして、よ。
あんたが欲しかったのはそんなものではなくて、下僕じゃないの。
そう、あたしは現在、彼女どころか召使状態なのだ。
ガラリ、ホームの戸が開く。
「よう!また二人でいるのか、仲良いな」
「……千秋……」
にこにこと笑いながら尚の横にどかりと座りこむ。
まさに妹に彼氏が出来て嬉しい兄貴状態。
「尚、いいのか?こんなヤツで。お前なら他にもっと美人な女を彼女に出来るだろ」
黙れ千秋、余計なお世話だっての。
尚は、その言葉に誰をも魅了する完璧スマイルを千秋に向けて炸裂させた。
そしてあたしもこれに毎度のこと騙されてしまう。
「俺は、真知がいいんだよ」
出た、出ました。
演技だとわかっていつつも、美青年にそんなことを言われれば、免疫のないあたしの心臓はドキリと鳴る。
「サンキュな、尚。ほんとこいつ、これまでほんっとに男っ気なくてさ。一生独り身なんじゃないかとずっと心配だったんだよ」
千秋の言葉にムカつきながら、紅茶を啜る。