憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
「まあ、俺には関係ないから別にいいけど」
「嫌なヤツ。そんな気になるようなことだけ言い捨てて知らんぷりですか」
「別に良いヤツになろうなんて思ってないし」
ああ言えばこう言う、憎たらしい尚。
こいつの言ったことがほんの少し気になったけれど、どうせいつも人をおちょくるのが好きなコイツのことだ。
聞かなかったことにしよう。
椎名純子は止めた方がいい、だなんて。
この言葉だって、千秋が狙うにはレベルが高すぎるから傷つく前に止めた方がいいっていう意味かもしれないし。ほんっとに余計なお世話よ。
そうこうして、尚と別れたあたしは駐輪場に一緒に並べてある原付バイクをとりに行く。
ゆっくりと車体を転がしながら、千秋のことを思った。
好きだという気持ちは、依然消えることはない。例えそれが叶わないとわかっていても。
振られるのが怖くて、今の関係が崩れてしまうのが怖くて、踏み出すことの出来ないままのあたしはなんて臆病なんだ。
ふと俯いていた顔を上げる。
「あ、」
思わず声を漏らしてしまう。
その声に、彼女も気が付いた。