憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
『…はあい』
「おばさん、こんな時間にごめんね…」
『あら、真知ちゃん!?ちょっと待って!』
そう言って、すぐにドアが開けられる。千秋の美人ママがひょっこりと顔を覗かせた。
その顔はすぐに歪められる。
「やだ、千秋ってば」
泥酔して、深い眠りに落ちている千秋の脇に、おばさんが肩を入れる。
「ごめんね、真知ちゃん……。まったくこの子ったら」
困った顔をしながら小さい体で千秋を支える。それを手伝いながらリビングのソファに寝かせた。
「いつもありがとうね、本当にこの子ったら真知ちゃんに甘えっぱなしで…」
「いいのいいの、じゃああたし帰るね」
そう言えば、おばさんは少し驚いた顔をする。
「どうして?お茶でも飲んでいけばいいじゃない」
「…さすがにこんな時間だし、悪いよ」
「そうよね、私こそごめんね。今度は昼間に一緒にお茶しましょう」
こんな時間に起こしてしまい、申し訳なく思いながら小さく頷き、逃げるように千秋に背を向ける。
あたしは、急がなきゃ駄目だ。一分、一秒、少しでも早く、向かいにある自分の家に慌てて飛び込む。またこんな時間まで飲み歩いて、そう怒る母親に返事もしないでベッドにダイブした。