憂鬱なる王子に愛を捧ぐ

ほっそりした色白の首筋に、丁寧に巻かれた栗色の髪が掛かる。
華奢なその背。

「純子だ」

やっほー、と純子に呼びかけようとしたその時、あたしの口をなんの遠慮もなく尚が塞ぐ。

「むがっ」

「静かに」

嗜めるようにそう言う尚に、あたしは思い切り目を白黒させる。ちょ、い、息が…!

「むー、むむ、むーッ!」

「あ、ごめん」

「窒息させる気!?」

肩で思い切り息を吸いながら、小さく怒鳴る。

「……あれ、アキラだ」

「え、嘘。ほんとうだ」

千秋がぽつりと呟いた。

あたしと千秋はゆっくりと純子のいる方を見る。
純子もアキラもまだこちらに気づいていないから、こそこそと木の陰に隠れて様子を伺う。

「アキラ?」

「尚は知らないか。田口彰、サッカー部のキャプテンやってるのよ」

「へえ、その田口がなんで椎名純子と一緒に居るわけ」


尚の問にどきりとする。こんな場所で神妙な顔した二人が佇んでいるなんて、シチュエーションとしては大体限られてくる。

恋人との語らい、もしくは告白のワンシーン。
彼氏がいるなんて話は聞いたこともないし、おそらく可能性としては後者だろう。
< 84 / 533 >

この作品をシェア

pagetop