憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
ほっそりした色白の首筋に、丁寧に巻かれた栗色の髪が掛かる。
華奢なその背。
「純子だ」
やっほー、と純子に呼びかけようとしたその時、あたしの口をなんの遠慮もなく尚が塞ぐ。
「むがっ」
「静かに」
嗜めるようにそう言う尚に、あたしは思い切り目を白黒させる。ちょ、い、息が…!
「むー、むむ、むーッ!」
「あ、ごめん」
「窒息させる気!?」
肩で思い切り息を吸いながら、小さく怒鳴る。
「……あれ、アキラだ」
「え、嘘。ほんとうだ」
千秋がぽつりと呟いた。
あたしと千秋はゆっくりと純子のいる方を見る。
純子もアキラもまだこちらに気づいていないから、こそこそと木の陰に隠れて様子を伺う。
「アキラ?」
「尚は知らないか。田口彰、サッカー部のキャプテンやってるのよ」
「へえ、その田口がなんで椎名純子と一緒に居るわけ」
尚の問にどきりとする。こんな場所で神妙な顔した二人が佇んでいるなんて、シチュエーションとしては大体限られてくる。
恋人との語らい、もしくは告白のワンシーン。
彼氏がいるなんて話は聞いたこともないし、おそらく可能性としては後者だろう。