憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
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そんなこんなであたし達は今、居酒屋にいるわけなのだ。
「(なんであんたまでいるのよ)」
「(さあ。俺だって帰りたかったのに、あんたの幼馴染がどうしてもって聞かないから)」
ぼそぼそと攻撃しあうあたしと尚。
「ちょっとそこのふたり、いちゃついてないで慰めろよなぁ」
「「いちゃついてない!」」
声の重なったあたし達に、千秋は楽しそうにケラケラと笑った。
その笑顔を見て、思わず動きを止める。あの後、純子がどういう答えを出したのかは知らない。もしかしたら付き合うことになったかもしれないし、そうでないかもしれない。
田口彰は、千秋と違って割とガッチリとしたスポーツマンタイプだ。
アメリカのマッチョなヒーロー系。
逞しい肉体に爽やかな雰囲気で、女子並びに男子共通して人気がある。
「あ、すみませーん、枝豆と、だし巻き卵追加で」
「はい、よろこんで!」
呑気に注文を付ける千秋に溜息を一つ。
それに目ざとく千秋が唇を尖らす。
「なんだよ」
「べっつにぃ」
誤魔化すようにビールを一口。うん、うまい。