憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
「付き合うのかなー…純子。ていうか、アキラみたいなのがタイプだったら、俺確実に負ける…」
「……まだ振られるどころか告白すらしてないのに、よくそんなに落ち込めるね」
相変わらず酔いがまわるのが早い千秋。
さりげない尚の棘も、もはや麻痺して届かない。茄子の一本漬をちびちびと齧りながら肩を落としている。
おいおい、あんたまだ二杯目でしょうが。
純子じゃなくても、あんまり酒の弱い男はモテなんだぞ、千秋君。
「どこがいいわけ、あんな女の」
「あんな女って!」
とんでもない言い方をする尚に、千秋の代わりに嗜めておく。
尚は特に気にもせず、箸で運ばれてきた出し巻き卵を虐めていた。綺麗な黄色には、箸で抉られた穴がいくつも空いていて酷く痛々しい。
可哀想な卵の姿が、あたしと被るのは、きっと気のせいじゃない筈だ。
「大概馬鹿だね。真知も、千秋も」
尚は千秋を見ながら真顔でそう言った。
いい返そうと思ったけど、思いのほか尚の顔が真剣だったから何も言えなかった。その怜悧な瞳が、ぶれることなく真っ直ぐに千秋を映す。
仏頂面、不機嫌面、憂鬱面、そんな表情は何度もみたが、こんなにも真摯な瞳を人に向けるのを初めて見た。