憂鬱なる王子に愛を捧ぐ

あたしの問いに対して、尚ときたら口元をほんの少し吊り上げて、馬鹿にするような目をこちらへと向けた。

「なによ、その目」

「いや、相変わらず鈍感だなと思って」

「んだとっ!」

怒るあたしに、小さく笑ってビールを飲み干す。
いつの間にか随分長居してしまったようで、時計の針は、既に22時を回っていた。店の周りの年齢は、学生層から仕事が終わったサラリーマン層へと変わっている。

ざわざわとした店内で、尚の少し低めの声がゆっくりと響いた。

「いい、真知。好きとか、嫌いなんて感情は対極にあるけど、どちらも相手に対して感心がないと働かないものだ」

「……うん?」

「俺は、椎名純子が嫌いじゃない、だけど好きでもない」

尚は、きっぱりといいきった。

「ああいう人間に、思うことは何もない」
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