憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
尚は、じっと千秋を見つめる。
「真……知……、」
え!?
千秋が寝言であたしの名前を呼ぶのを聞いて、胸が高鳴る。
続きは?続きは!?もしかして、"好き"とか?いやいや、どんなポジティブ妄想。
「ヒサに迷惑かけんじゃねえぞ」
思わずがっくりと項垂れてしまう。
長年の幼馴染に対して、これは酷すぎじゃないですか。
「ばか千秋!」
なんか、前にもこういうことあったんですけど(あ、そうだ。千秋の純子への愛を聞いたときだ)
もう、泣いちゃうぞ!
なんて可愛く拗ねてみても誰も構ってくれないんだからな。ほんと現実ってヤツはしょっぱい。
「……っ」
「尚……?」
そっと、静かに口を押さえる尚。
「どうしたの?」
いくらムカつくヤツだとしても、体調が悪いのだったら放っとけないだろう。まあ、そこまで非道でも悪人でもないし。
がた、と立ち上がって店の外に出る。
千秋を残してしまうのに、少し躊躇ったけれど後を追う。