憂鬱なる王子に愛を捧ぐ

暖簾をくぐり、視界に広がる濃紺の空はよく晴れていた。
雲はなく、無数の星がちらちらと瞬いている。

春の、少し生暖かい風がざわりと吹いた。


「尚、……大丈夫?」


背を向けたまま、答えようとしない尚を覗き込もうと回りこむ。けれど、それに抵抗するように尚はあたしから顔を背けた。

……なんだってのよ。

ふう、と息を吐いた尚が視線だけであたしを見る。
その直後だ。

「……っふ、」

「な、なによ!」

堪えきれないといった様子で、尚は随分と遠慮がちに笑うのだ。
それは、出会ってから今日まで、彼が見せてきたどの顔とも違っていた。

「あっちいって」

「別に、逃げなくても。大声出して笑えばいいじゃん」

「……何言ってんの」


尚の頬は、少しだけ赤く染まっているように見えた。
アルコールのせいで、そう見えているだけかもしれないけど。まるで恥ずかしいものでも見られたとでもいうように、フイとあたしから顔を反らした。

「おかしかったらちゃんと、今みたいに笑えばって言ってるの」

「馬鹿言うなよ、したことない。そんなこと」
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