憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
そんな、まさか、と、尚に対しては何故か言えなかった。
尚はゆっくりと息を吐く。そして少し驚いた様子で、そっと自分の胸元をなぞった。
「けど、本当にびっくりした」
「いやいや、びっくりしたのはこっちだよ。本当に、具合でも悪くなったのかと思ったんだから」
「……苦しかったのは本当。笑いすぎてお腹痛いし」
「尚って絶対サディストだよね。あたしがあんなに悲しんでるところを見て、そんなに爆笑するなんてさ」
「まさか。そんなはずないでしょ」
自覚なしって、厄介すぎる。
尚はその美しい形をした目をゆっくりと細め、眉を寄せたあたしを一瞥する。そして、そのまま何も言わずに席へと戻っていった。