憂鬱なる王子に愛を捧ぐ

尚が、あたしのパソコンを覗きこむ。
こんな状態だ。きちんと仕事をしているのか気になったんだろう。

その、ピアニストのような指が真っ直ぐと伸びて、パソコンの画面を指す。

「馬鹿、ここ間違ってるよ」

「……」

「なんの真似?」

「え」

自分の両手をまじまじと見つめる。
あたしは、しっかりとその両手で尚の胸倉を掴んで真正面へと引き寄せていた。
何をしているのか、何をしたいのか、よくわからない。けれど、口は勝手に開いて、そして言葉は勝手に流れ出した。

……とにもかくにも、酔うって怖い。
今まで理性で押さえ込んでいたものが緩んで、全部吐き出されてしまうのだから!

「……尚」

「なんだよ」

「誕生日いつ」

「は?」

必死にあたしの腕を払いのけようとする尚。
無駄なことを。こう見えても、あたしは幼いころに千秋と共に空手を習っていたのよ。
逃げられないようにがっちりと拘束する。

おい、と尚が小さく批難した。
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