憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
「答えなさいよ」
ああ、なんだか、王子にとんでもないことをしているのは気のせいですか。
と、誰かに心の中で問うてみる。
「6月…、7日…」
「血液型は、家族構成は、好きな色は、好きな食べ物は……」
「ちょ、真知……なんなの、さっきから」
足元が覚束ない。
椅子に座る尚に、体ごと倒れこむ。ぐらり、バランスを崩して身体が傾き落ちていくのをなんとなく感じていた。
「いい加減にしなよ……!」
尚がなにか言っているのが遠くで聞こえる。
どすん、という音と共に、鈍い痛みが体を襲う。
どんな状況で、今あたしと尚がどうなっているのかわからなかったけれど、ふわりと、いつも尚が吸っている煙草の匂いが鼻をくすぐった。
気持ちよくて、もっとそれを感じたくて、それに顔をすりつける。
「真知……」
「……いくら、単なる契約の彼女だってさ」
「なに」
「友達、くらいにはなっても、いいんじゃないの……。何も知らないなんて、寂しい……」
ああ、あたし何言ってるんだろう、何してるんだろう、馬鹿、馬鹿。
もう、なにがなんだかさっぱりだ。
「明日、覚えておきなよ」
なんて、霞む視界にうつる尚の顔、少し赤い?やっとこいつも酔ったのかな。尚の地を這うような声音を聞かない振りしてそのまま目を閉じた。