大人的恋愛事情
 
「やめて」



顔を逸らしもう一度静かにそう言うと、意外にも素直に従う圭が、枯れ木の並ぶオフィス街の歩道で、甘く冷たい声を出した。



「藤井さんとはもう会うな」



どうしてそんなことを圭に言われないといけないのか。



どうして今さら私に構うのか。



どうして彼女と別れたのか。



私を捨てておいて……。



「どうして?」



かろうじて出した声は掠れている気がして、どこまでも動揺する自分に情けない。



「俺には繭しかいないからだ」



そう言った圭を見ると、その瞳の奥は冷たいというのに、そこに懐かしさを見つける自分が本当に嫌になった。
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