大人的恋愛事情
 
「いいですけど?」



一瞬の沈黙の後、藤井祥悟がふっと笑う。



『やけに素直だな。じゃあ正面……』



「裏にしてくれない?」



思わずそう言うのは、圭の電話を思い出したから。



正面玄関で、鉢合わせなんて最悪の事態だけは避けたい。



『また寿司奢らされるのか?』



少し笑って呆れたように言う藤井祥悟の声は、低く冷たく聞こえなくもないのに何故か優しく思えて。



「嫌なら……」



『いや、別にいい。じゃあ裏で』



そう言って電話を切る男は、本当に優しかったりして。
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