大人的恋愛事情
誘い
 
仕事中も、ああでもないこうでもないと言って来る美貴ちゃんをやり過ごし、やっと終業時間を迎え詩織と鍋を食べるべく、ロッカールームに向かう。



鍋に入れるコラーゲンをどこで買うか話ながら、着替えて会社を出たところでその男は声を掛けてきた。



美貴ちゃんが今日は彼氏とデートだからと、急いで先に帰ったことに少しホッとする。



この状況は間違いなく彼女のテンションを上げさせるだろうから……。



「どうも」



軽くそんなことを言う男は、スーツの上から深紺色のロングコートを羽織り、黒の薄手のマフラーを巻いている。



やけに長いマフラーなのに、長身のためかよく合ってたりして、チラッと視線を向けただけで立ち止らずに返した。



「どうも」
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