大人的恋愛事情
苛立
正面ロビーで待っていた男は、ソファの背凭れに軽く腰を掛けていて、私の姿を見ると立ち上がった。
受付嬢の視線が痛いのも、ここまでくるエレベータの中でひやかしの声を掛けられるのもすべてに慣れきっていたりして。
我ながら可愛くもなんともないと思うのに、どうしてこの男は好きなのだろうと、変なことを考えながら藤井祥悟と会社を出た。
「昨日……」
定食屋「まる善」へ行こうと決まり、そこに向かって歩いていると突然そう言い出す男に、少し慌てる私は視線を向けた。
まさか圭が家に来たこと……。
「夜、電話しようと思ったんだけど、よくよく考えたら知らねえんだよな」