crocus
「……僕ね、ずっと前からここの人間が好きじゃないんだ。くだらないし、つまらないし、塾に行ってる方がずっと有意義だった」
それから……と言葉を続ける健太は、すぐ目の前に来て絵に描いたようにニッコリと笑いながら言った。
「もう、僕に関わらないでね。僕、初めて会ったときから琢磨のことが大っ嫌いだったんだ」
「てめぇ……ゆるさねぇぞ……」
どんな怒りの裏側にも、悲しみが隠れているんだろう。健太の言葉がショックで、悲鳴を上げる身体は強張り、力が篭っていく。
気づけば振りかざしていた拳は見事に命中し、すぐにそれ相応の痛みが手の骨にまで響いて拳を開くことさえ上手く出来ない。
こんなにも人を殴るのは痛くて、心は罪悪感と悲壮感と怒りで震えるものなんだと初めて知った。
倒れたのは、高校生ピンク。
「……なめんじゃねぇぞ?」
そいつを見下ろしながら言葉を吐き捨てるも、それを向けたのは背後にいる健太に対してだ。
「なんなんだよ……。僕は琢磨が……」
「るせぇぇ!!お前は俺の親友だ!」
もう気を張るなよ。
琢磨は後ろを振り向きながら、そんな思いを込めて笑ってみせた。
その途端、鈍いけれど壮絶な痛みが脳天に直撃した。グラリと体が落ちる。
上を向く目玉は、高校生グリーンの履くハイカットブーツのかかとを捕えた。
それから腹や背中を蹴られ続けた。痛みでうっかり意識を手放してしまいそうな中、琢磨は苦々しい表情の健太を見つけた。
「ばかっ……なに……ってんだよ!……にへろぉ……、はやく、にげろー?」
口の中が血や砂で汚れてしまっていてうまく言えたか分からなかった。
「おい、もういいやめろ」
ばか……。お前は止めなくていいから、逃げろって……。
「あぁん?指示してんなよ?黙って聞いてりゃ……このくそがき……」