crocus
もう腕も脚も満身創痍で力の入れ方すら忘れてしまっていたけれど、会いたい精神だけがペダルを踏んでくれた。
目指すは、明日から2学期が始まろうとしている小学校内の『もみじロード』
そこは健太と初めて話した思い出の場所。
虫全般に触れない健太の背中にカブトムシがとまり、泣くのを我慢している姿を見かねて助けてやった。
その時に初めて話をした。
『虫が怖いくせに、虫だらけのもみじロードでなにしてんだ』って。
そしたら健太は何事もなかったようにしれっと振る舞い、力説した。
"もみじロードって名付けられているのに、桜の木も銀杏の木も、杉の木もあるなんて変だと思わない?本当に一番多いのがもみじの木なのか数えているんだよ"
助けられたことが恥ずかしいのか顔を赤らめて、握り拳も震わせながら話す健太をおもしろいと思った。
それから琢磨がその疑問に直感で答えれば、健太は度肝を抜かれような表情をした後、初めての笑顔を見せた。
"数じゃなくて、この中で一番でけぇ木がもみじだから、もみじロードなんじゃね?"