crocus
ほぼ背丈が同じくらいの2人は至近距離で睨み合う。
「恵介の目を見て、それ言えるわけ?……つぅかさぁ、大体、恭平が……」
ピリピリとした不穏な空気に焦って若葉が立ち上がると、椅子の脚が床を鈍く擦る音が口論を遮った。
「あの!ごめんなさい……。私のせいで空気を悪くしてしまって……。上矢さん、私は大丈夫です!タ、タクシーを呼ん……」
「ハハハハッ!」
突如、空気を吐き出すような感情のない笑い声をあげたのは『けいすけ』さんだ。
「琢磨……何を熱くなってんのさ?いいよ、気にしないで。一泊くらいどうってことないし。その子は誠吾の部屋で、誠吾は琢磨の部屋で寝ればいいんじゃない?……鳴りそうだし、ね」
冷めた『けいすけ』さんの意味深な言葉に、『たくま』と呼ばれた黒髪ツンツンの男性の肩がぴくっと動いた。
『けいすけ』さんは、ゆらりと立ち上がると空のグラスをコツンとカウンターに置いてから、店内を仕切る暖簾の方へ歩いていく。
こちらを振り返らず、片手をヒラヒラさせながら「おやすみ」という言葉を残して。