crocus
「…もう耳は大丈夫ですか?」
「ん?あぁ、もう大丈夫!その…ありがと、な!」
照れを誤魔化しながら、勢いに乗ってお礼を言ってみる。
「いえ!私が寂しいからって琢磨くんに甘えようとしなければ…本当にごめんなさい!」
「…へ?」
琢磨の口から出たのは、なんとも間抜けな声だった。
この子、なんて言いました?
琢磨くんに甘えようと、甘えようと、甘えようと…。
自分に向けられた慣れない言葉を反芻してみた。
いつもなら女の子に頼られるのも、甘えられるのも琢磨ではなくて、要や恭平の役目だ。琢磨は若葉がそう思う理由を精一杯の知恵を絞って考えてみる。
そう、『もし俺が若葉なら』作戦で。そうすれば案外、簡単に原因が分かった上に、22歳にもなって気遣えなかった自分が情けなくなった。
若葉はまだ慣れない生活。その上、店が無くなるかもーなんて不安要素を投げ掛けたままの状態。
…それに雨。
え?それは俺だけ?
とにかく家に自分しかいないのだから、率先して声をかけてあげるべきだったのに。
自分がしたことと言えば、怒鳴って、皿をひっくり返しただけ。おまけに助けてもらってちゃ話しにもならない。
若葉から見えないようにどんよりと自嘲したあと、気を取り直して若葉を見た。
「これから寂しかったら、いや、寂しくなくてもいつでも来ていいから。一緒にゲームしようぜ?」
そう言うとパァと花が開いたような笑顔を見せて、本当に嬉しそうに返事をしてくれた。
「はい!ありがとうございます。私、雨の日はなるべく琢磨くんのそばにいますから!」
"…耳を、目を塞ぎにいきます"
張り切る若葉を見つめながら、さっきの携帯でのやり取りを思い出す。
本気なんだなと嬉しく思いつつ、今度は雨の日いつかな…なんて既に楽しみにしている自分に驚いた。
「…あいつらには…秘密な?」