crocus

ふかふか枕

      ***

琢磨くんは、雨の日にそばにいることを許してくれた上に、寂しくなった時も来ていいよと言ってくれた。

実は今となっては『塞ぎにいきます』なんて、大それたこと言ってしまったかな、と反省していたりする。

琢磨くんが雷を見ると耳が聴こえなくなってしまうのは、心が悲鳴をあげているのだと思った。

本当にそのお友達さんが大好きだった証拠。

人との繋がりをすごく大切に出来る琢磨くんの人柄そのものがそうさせたのだと。

琢磨くんはそのことを負い目に感じているけれど、若葉にとってはやっかいだなんて思えなかった。

ただただ…健やかな心を守るための無意識の自己防衛。それのどこが悪いことだというのだろう。

携帯電話に何度も何度もそんな思いを言葉にしようとしたけれど、その表示される文字ではどこか奇麗事のような気がして、他人事のような気がしてうまくいかなかった。

あまり待たせてはいけないと焦りながら、やっとの思いで返せた返事はやっぱり心許なくて、琢磨くんが過去を話したことを後悔しないか不安だった。

琢磨くんの心が耐えて守っている琢磨くんの大事なやわらかい部分を一緒に守りたい。

そんな意味を込めて、『目を耳を塞ぎにいきます』と返したのだけれど。もちろん望んでくれるなら、お手伝いしたいけれど。

的外れな変な子だと思われてないといいな、と祈る若葉。その隣では、琢磨くんがおもむろにヘッドフォンを耳から外していた。

静かに驚いて、その様子を眺めていれば琢磨くんがこちらを見てニヤリと悪戯っ子のように笑った。

「若葉、なんか喋ってくんない?なんでもいいよ」

「え?えと、うー…。なんでもと言われても…。ヘッドフォン外して大丈夫ですか?また…あの…」

雷が…、そう言う前に琢磨くんが若葉の頭にヘッドフォンを被せた。

「おぅ、だいじょーぶ。ってか、ずっとヘッドフォンしてたけど、ホラ、抜けてる。ふふっ」

琢磨くんの言う通りヘッドフォンからは音がしないし、ヘッドフォンのコードを辿ればは音楽再生機器のすぐそばを転がっていた。

さっと青ざめて、息を飲んだ。自分なりに気をつけたはずなのに…。それじゃあ、治った瞬間から雨の音を聞かせちゃったんだ…。


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