crocus
これ以上騒いでは琢磨くんの安眠を妨げてしまう。焦っていれば恭平さんとオーナーさんの間がズズイっと開いた。
「若葉ちゃんおいで?」
「え?わっ、あっ!」
若葉の手を引いたのは、先ほど部屋を出て行ったはずの誠吾くん。突如、引かれた力に逆らうことなく体が誠吾くんの腕の中に納まった。
膝枕の状態からボフっとベッドに沈んだ琢磨くんの体。それでも、変わらずスヤスヤと眠っていてホッと安心した。
「琢磨、これ貸してあげるー」
楽しそうな笑顔で、琢磨くんの頭の下に差し込んだのは 黒いブラをしている女性の胸型まくら。
「琢磨は、黒が好きって言ってたからなぁ」
「そうね、Dカップも好きって言ってたわよねー」
琢磨くんの趣向を知り、なんとなく若葉は自分の胸を見下げてみるも、わずかな傾斜をTシャツの布地がなんなく乗り越えている。なんだか寂しい気分になりながら答えた。
「そうなんです……ね」
「若葉ちゃん、下でお茶にしましょ?午後からは営業再開よ」
「うん、行こ行こ!!」
優しく背中を押され、若葉達は静かに琢磨くんの部屋を後にした。
最後に残った橘さんが扉を閉めるときに、小さく呟いた。
「にやけすぎ」
「え?」
「君には、言ってないよ」
意味深な笑みを浮かべ、ポケットに手を入れたまま若葉の隣を横切っていく橘さん。若葉は不思議に思いながらも、その後を追いかけた。