crocus
恭平さんはいつも一人で行くらしく、目的地まで20分かかることもあれば、1時間かかったときもあるという。
行きでそれだけかかったのだから……帰り道は…。
少しぞっとした。
「次、2つ目の信号を左です」
「はーい」
走り抜けるこの街は若葉の通っていた高校の隣町に位置している。若葉は高校生活のほとんどを園芸部に費やし、友達と一緒にいられれば、遠出しなくとも高校の寮の近辺でも十分に楽しかった。
だから今、目に映る景色どれもが真新しくて、流れていく看板やお店を飽きることなく目で追いかけた。そして帰り道をスイスイ帰れるよう目印を決めていった。助手席として精一杯、役に立ちたかった。
「月に何度くらい、コーヒー豆を買いに行くんですか?」
「そだなぁ…季節でも変わってくるんだけど…月3回だな。うん」
「そうなんですねー…、インスタントばかり飲んでいたので何にも知らなくて…」
車はどんどん進み、車通りが少ない通りに入った。
「俺も高校卒業して、この世界に入るまでほとんど知識ゼロだったよ。いろんな工程があって大変なんだぜー。その手間とか奥深さを知ったらもっとコーヒー一杯が特別になるんじゃねぇかな」
「いろんな人の苦労が一杯に凝縮されているんですねー…」
コーヒー豆販売店に着くまで、コーヒー豆を挽くまでの流れを教えてもらった。
良い豆と悪い豆の選別にいかに手間をかけられるかが品質に影響してくること。その中で一粒一粒を手作業で選別するハンドピックが相当辛い作業であることなど、目から鱗な話ばかりだった。
そして何より、そんな話をイキイキと話す恭平さんの横顔はすごく楽しそうだった。たまにこちらを見て熱弁するので、ヒヤヒヤもしたけれど。
恭平さんは本当にコーヒーが大好きで、バリスタであることを誇りに思っていることがひしひしと伝わってきた。
そしてコーヒー豆を栽培する外国人や焙煎する人達のことを敬っている言い方にすごく好感がもてて、聞いているだけでも単純に楽しかった。