crocus

正確には頭が馬、首から下はエプロンをした人間だったのだが、衝撃的すぎてつい大声を上げてしまった。

「じっちゃん…」

「(うわぁお!女の子やないか、若い女の子や!)」

恭平さんが呆れたように項垂れて、馬さんからふがふがと篭った声が聞こえてきた。今更だけれど、馬さんの首元がカパカパしていることに気づく。被り物のようだ。

「おはようございます…。大声出してしまってすみません…。私、クロッカスに新しく入りました、雪村若葉と言います」

どこを見ながら話せばいいのだろう。というか、どこから見ているのかな…、口かな?ギンギンに見開いてる馬さんの目玉ではなさそうだ。

「(いいやぁ!これはどうも。私は…)」

「てゆーか馬、取れよ」

「(これでもここの店長の長谷川といいます。びっくりさせちゃって悪いねぇ)」

無視された恭平さんはムキになって無理やりグググーっと、馬さんの頭を引っ張るもなかなか取れないようだった。

「(…無駄無駄。昨日の夕方から外れん…)」

「え!?」

「って、ウッソー!!」

と、言いながら長谷川さんはスポーンと元気よく馬さんを取った。馬さんの首が長かったせいでそう見えるだけなのか、長谷川さんは案外小さな可愛らしいおじいちゃんだった。

「…っだぁ!もう、じっちゃん!元気だなーおい。…まぁいいや、いつものやつ、倉庫?」

「ほほほ。ほれ、鍵」

長谷川さんがポケットから鍵を取り出し、腕を伸ばして見せると銀の鍵はプラーンと揺れる。それを恭平さんが受け取るも、すぐに若葉の手のひらに乗せた。

「俺、ワゴンを倉庫近くまで寄せるから、先に行ってじっちゃんに倉庫案内してもらってて?」


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