crocus

扉の金具が擦れ、キィーっと高い音が倉庫内に響く。

長谷川さんが扉を開いた途端、コーヒー豆の濃い香りがあっという間にほんわりと全身を包んだ。

中の広さは畳10畳分くらいで、床はコンクリート。ダンボールが積まれている鉄製の棚があり、大きな冷蔵庫が2台あった。

「えーっと、そっちの冷蔵庫の中にクロッカスから注文を受けたコーヒー豆が入っているよ」

「こっちですか?」

シルバーの冷蔵庫は若葉の背よりも大きいもので、きっと少し値が張りそうな上等品。

「うんうん。重たいものもあるから恭平が来るのを待った方がいいかもしれんね」

「はい、そうします。何か運ぶときに気をつけることはありますか?」

「んー、ワゴン内にクーラーボックを常備してるだろうし…まぁ、豆は温度、光、酸素、湿気を嫌うデリケートな奴らだから、赤ん坊のように大切に運んでくれたら嬉しいよ」

「分かりました!慎重に…ですね」

「よろしくね。あとは恭平に聞くといいよ。おじさんは、今ちょうど焙煎してる豆の様子を見てくるとしようかな」

そう言って、長谷川さんはポテポテと扉から出て行った。見届けたあと、床を見れば馬の被り物があってぎょっとした。忘れていってしまったようだ。
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